ここは、都会の喧噪から引き離された知る人ぞ知る老舗スナック。
夜な夜な少なの女性が集い、想いを吐露する隠れた酒場。
確かに近年、女性が活躍する場は増えて来たように私も思う。
自由に生きていい。そう言われても、
「どう生きればいいの?」
「このままでいいのかな。」
「枠にはめられたくない。」
私たちの悩みは尽きない。
選択肢が増えたように思える現代だからこそ、
多様な生き方が選べる今だからこそ、
この店に来る女性の列は、絶えないのかもしれない。
ほら、今も細腕が店の扉を開ける気配。
一人の女性が入ってきた……
連載 今を生きる女性の本音「かぐや姫の胸の内」
今晩のゲストは、サンワード・ラボ株式会社 代表取締役の長友まさ美さんです。
長友 こんばんはー!
── こんばんは。お仕事終わりかしら?
長友 はい、今日は仕事で宮崎県から東京に。
── お仕事は何を?
長友 サンワード・ラボ株式会社で代表取締役を務めています。「経営者もスタッフも幸せに働く会社づくり」をテーマに、企業研修やチームビルディングをしたり、エグゼクティブコーチングをしています。
── ふうん……。起業して、自分の会社を経営しているのね。今おいくつ?
長友 もうすぐ34歳になります。
── そう。はるばる宮崎県から、江戸へようこそ。マンゴーのてげてげ焼酎割を作ったから、まずはゆっくりとお飲みなさい。
長友 (江戸?)
起業家、プロコーチ、そしてひとりの女性として
── ねぇ、さっきの仕事の話。コーチングってなぁに?
長友 コーチングは、自発的な行動を促し、目指す姿に向かって近づけていくコミュニケーションです。自分が本当に望んでいることや、悩んでいることって、意外と本人は無自覚だったりしますよね。感覚としてはわかっていても、言語化できていないとか。
その人の言葉の奥の願いを聴き、質問し、ときには外側からこそ見える姿を率直に伝えることで、その人の中から答えを引き出す。そして、その人が本当に目指したい姿に向かっていくための道を共に走る、伴走者の役割がコーチです。
── ふぅん。コーチね。宗方コーチ……。きっと、資格がいるお仕事なのでしょうね。
長友 (『エースを狙え』だ。)そうですね、そのための勉強をしました。
── コーチングの仕事の楽しさって何だと思う?
長友 人の変容の美しさを見る瞬間でしょうか。コーチングを通して、人生で起きるどんなことからでも、何かを学び取れる強さが生まれます。
コーチングを受ける期間はそれぞれ変わりますが、人が変容するまでの期間って、だいたい3ヶ月くらいだと言われています。その期間、人生の旅を共に過ごし、コーチとクライアントの関係性が終わっても、お互いを成長させる新たな関係を築けることが、この仕事の醍醐味です。
── ふうん、誰かの人生に関わる仕事、かぁ。素敵ね。プロコーチや、起業家になるのはずっと前からの夢だったの?
長友 いえ、学生の頃は日本語教師を目指していました。会社を立ち上げたのは5年ほど前。その前は、また全然別の仕事をしていました。
私は、今振り返ると、しなくていい経験というか、回り道を多くしてきたなぁと思うような道を歩んでいるような気がします。アルバイトを含めれば、今まで30以上の職種を経験してきました。置かれている状況で一生懸命やれることをやって、それが終わったらやっと次の扉が開く、みたいな。その扉がどこに続いているかは、私自身にも開けてみないとわからない。
そして、正直なところ、今も次の扉はわかってない(笑)。
── 今も?
長友 えぇ。失敗だらけの人生なんです、私。
── そう? そんな風には見えないわ。あなたはとてもいい顔で笑う。そこにいるだけで、空気がぱっと華やぐような、明るい笑顔よ。でも、きっと色々なことがあったのね。ねぇ、よければ少し話してごらんなさい。きっとこれまでのことって、今のあなたに辿り着くまでに、必要なことだったんだと思うの。
紆余曲折、30種以上の職種を経て得たもの
長友 じつは、思春期の頃は地元の宮崎県が大嫌いだったんです。
── へぇ。
長友 一秒でも早く地元を離れて、違う土地で暮らしたいと思うほどに、好きになれなかった。だから、高校を卒業する18歳の時、進学を機会に岐阜県に引っ越しました。
先ほど言った通り、その時は日本語教師になりたかったのですが、自分が方言を話していることに気が付いて、すぐに挫折。標準語を話すためにアナウンススクールに通ったりもしましたが、結局はあっさり日本語教師の夢はあきらめて、学校にも行かず、アルバイトに明け暮れる日々を送るようになりました。
── アナウンススクールに通うバイタリティもすごいと思うけれどね。アルバイトは、楽しかった?
長友 そうですね。学校で習うことよりも、社会に出て学ぶほうがずっと大切、なんて生意気なことを言って、とにかくいろんな仕事を経験しました。飲食店から、テレフォンオペレーター、麻雀荘のにぎやかしみたいな、ちょっと変わったことまで。
── 麻雀荘?
長友 麻雀って機械を4人で囲うんですけど、リーチ棒を機械の上にポンと置くと、「リーチ!」って機械が言う仕組みがあったんです。そしたら、ミニスカートを履いた私が「リーチが入りました。みなさん頑張ってください!」って言う仕事です(笑)。
── 若さを最大限に生かした仕事ね……。私が今やったら、怒られるわ。お客さん、帰っちゃいそう。
長友 そんなことは(笑)。でも、ほんと世の中にはいろんな仕事があるものですよねぇ。それ以外にも、ちょっと法的にグレーなんじゃ……って不安になるようなことや、裏側の世界ってこんな風になっているんだなぁ、と思うような光景を見たこともありました。
── 下手な新社会人よりも、学生時代のあなたのほうがいろいろな経験を積んでいそうね。その経験を通して、何か学んだことはある?
長友 うーん、一言では表現しづらいですね。
私、じつは死にかけた経験があるんです。大学3年生くらいの時に、住んでいた家が火事に遭って。それまで日常にあったものが、ある日突然すべてなくなって、部屋着のまま逃げ出す経験。……なんだろうなぁ、いわゆるモノには価値がない、物質的なものには価値がなくて、最終的に残るものは自分の経験や体験、学び、内側にあるものではないかと思うようになったというか。
── それは、大変だったわね……。
長友 だから、稼いだお金は、モノを買うことよりも、自分の経験のためにお金を使うということを優先してきた気がします。
人生は、何かあった時に助けてと言える人がいるかどうか。正しい知識を知っているか知らないかで、大きく道が変わることがあります。具体的なことは話が長くなるので割愛しますが、でもこの頃は、間違いなく私の短い人生の中でも、暗闇の時代だったと思います。すっぽりと記憶から抜け落ちていることもたくさんあって、人の記憶は辛い記憶は、忘れるようになっているんだなと思います。
── そう。
長友 風向きが変わったのは、前職に就いた時。朝から晩までアルバイトに明け暮れる生活でしたが、こんな時間の切り売りをするのは、この先続かないなと漠然と感じていました。とはいえ、やりたいこともなかったので、まずは、一つの会社で働くことをやってみようと思いました。
でも、アルバイトはすぐに採用されるのに、正社員でとなると書類審査すら通らないんです。今思うとなぜだめだったのか明確なのですが、当時は、私の市場価値ってないんだなと自信を失っていました。そんなときに拾ってくれたのが前職の会社でした。映像制作が中心事業の会社でしたが、まずはモデルとして採用していただきました。
入社してからはどんどん規模が大きくなって、事業も増え、人が不足してきたときに、「週3回くらい雑用とかできる?」と。頼まれごとを全部、イエスと言っていくうちに、だんだんと仕事の幅が広がり、気がついたら社内から恐れられる人事部の責任者になっていました(笑)。
── ……途中、頭がついていかないほど、壮絶な話ね。あなた、今はほんとに素敵な顔して笑うのよね。その頃とは印象が違いそうだわ。
長友 たぶんそうだと思います。私は今は、目の前の人が笑ってくれたり、幸せそうにしている様子を見ることが大切で、しかたがないんです。それが私の生きる喜びのひとつだと思っています。
その頃もそういった気持ちは持っていたはずなんですが、仕事柄いろいろと小言を言う機会も多かったので、眉間にシワを寄せて、いつも怒り気味。なんだかおかしいなぁと気が付いたのは、27歳の時に働き過ぎで体を壊して、入院したベッドの上ででした。
── なんだか、あなたの講演会か、情熱大陸を観ている気分になってきたわ。
長友 あはは。
長友まさ美の「コーチングとの出会い」
長友 前職の仕事は、やればやるほど結果がついてきてくれたし、大好きだったし、恩も感じています。でも、病院の天井を見ながら10年後の自分をふと想像した時に、全然イメージが湧かないことに怖くなってしまって。何をやりたいとか、結婚して子どもを産みたいとか、ちょっとよくわからない。漠然とし過ぎた未来に、ものすごく怖くなったんです。
それで、退院後は自分にコーチをつけてみようと思いました。
── そこでコーチングが登場するのね。
長友 はい。そのときに、私は、目の前にいる人が笑っていたり、喜んでいるのを見ると、嬉しくなってまたなにかやりたくなる。それは無限に沸き起こってくるから、何も出し惜しみする必要はないんだなと感じました。一方で、そのときの私は、自分の可能性を信じきれずに、自分で自分を制限しながら生きていたことにも気づきました。
この先は、出し惜しみすることなく、全力で生きよう! と決めたのです。そんな人生の大事な気づきを得られるコーチングの面白さにも魅了され、いつか世界一周をしたいと思って貯めていたお金を、プロコーチになるための勉強資金にあてることを決めました。会社は、後ろ髪を惹かれつつも辞めることに。
── なかなか、28歳の女性にしては思い切ったことをしたものね。
長友 そうかもしれませんね。もし、今あの時の私に何か忠告ができるのなら、「もうちょっとちゃんと考えて、準備してからやったほうがいいんじゃない」って言ってあげるかも(笑)。「起業ってそんな甘くないよ」とか。
── 紆余曲折があったのね。あっけらかんと笑っているのではない、人の心に残る笑顔の理由がわかった気がするわ。
私の心が本当に求めるものを
長友 コーチングと出逢って、自分の人生って自分で作れるんだなってことを、本当に身をもって理解できるようになりました。それまでの自分の人生を振り返ってみると、なんだか舵取りを自分でせず、他の誰かに預けてしまっていた気がします。
人生が車のドライブのようなものだとしたら、助手席に座っている方が楽かもしれないけれど、自分で自分のハンドルをもって進むほうが、よっぽど楽しい。行き止まりだったら戻ればいいし、回り道したからこそ見える景色もある。そう思うと、遠回りした人生だったけれど、だからこそ見えたり、感じられることもあったのかもしれません。
── 自分の人生の中心に自分を置くっていうのは、当たり前のことに思えるけれど、意外に難しいものなのよね。
全力で生きても、死ぬ時は「やったことがないことの方が多い」
── 10代の頃は日本語教師になる夢を抱いていた、と言っていたわよね。やっぱり海外に憧れがあった?
長友 そうですね。未知への好奇心だったり、一度しかない人生を楽しみ尽くしたい気持ちは小さい頃から持っていました。人生って、どんなに全力でやりたいことをやって、毎日違う人と会ったとしても、死ぬ時はやったことないことのほうがたぶん多くて、会ったことない人の方が多いはずじゃないですか。
── うんうん。
長友 だから、できるだけたくさんのことを経験したいという気持ちは、未だにすごくあります。
……でも、大人になって少し考え方が変わってきた部分もあるんです。それは、「今この瞬間を楽しむ」ということじゃなくて、「瞬間を味わう」ことを大切したいなと思うようになったところ。
── どういうこと?
長友 私、なんでもかんでも心から楽しみたいと思い過ぎて、気付けば「本当に楽しくないことでも、無理やり全力で楽しむ癖」がついてしまっていたみたいなんですね。そうすると、自分が本当は何をしたいのか、何が嫌なのか分かりづらくなってきちゃう。
── ふぅん。
長友 「瞬間を味わう、味わい尽くす」という方向に頭を切り替えると、たとえば「しんどい」とか「悲しい」とか「本当はやだー」ってことも、素直に受け入れられるようになる。
感情のメッセージをそのまま受け取れば、「あぁ、そうだ。私は本当はこうありたいんだよね」とか「こういうことをいやだって思うんだ」とか基準が明確になってきます。そしたら、目指したい道筋が、もっとはっきりと見えるようになって楽になりましたよ。
── なるほどね。まさ美さんは、今、やりたいことってある?
長友 えー!? なんだろう……やっぱり出産とかかな、結婚・出産。
── 結婚は、したい?
長友 したいですね。
── 一生働いていたいと思う?
長友 働いていたいとも思います。でも、私は世の中のお母さんは、みんな働いていると思っているんですよね。「働く」という定義の問題なんですが。対価がもらえるかどうかじゃなくて、「傍(はた)を楽(らく)にする」っていうのが働くの語源だという話もあるけれど、自分の周りの人を楽にするとか喜ばせることが、働くことの本質だと思うんです。だから、おばあちゃんが道端を掃除しているのも「働く」のひとつ。
── そこに必ずしも「お金を稼ぐ」ということが入らない、と。
長友 そうですね。もちろん、私も会社を運営する側ですから、ビジネスとして成り立つかどうかはまた別の軸で考えていますが、「働いていたいかどうか」で言うと、一生人が喜ぶことを精一杯やっていたいなぁというのは思っていますね。
美しく生きなさい
長友 そうだ、ママ。最近、好きだなと思う言葉をもらったんです。
── どんな?
長友 「美しく生きなさい」って。 「薬膳茶房オーガニックごうだ」というお店の郷田美紀子(ごうだ みきこ)さんという女性がいるんですが、その方が普通のおしゃべりの時に何気なく言っていたのが、私にはとても響きました。
何かをするときに、「これは本当に美しいのかな?」と考えると、行動するときの判断基準になります。それが、私の目指したい「瞬間を味わい尽くす」ことに繋がるかなと思うんです。
── 着飾るとか見栄を張るという事とは、全くの別の次元。内側からにじみ出るような美しさを養うために、必要そうなことね。いい言葉をもらったわね。
長友 はい、そう思います。
【かぐや姫の胸の内】明日月に帰るとしたら
── 最後にひとつ教えて。かぐや姫は月に帰ってしまった……。ねぇ、まさ美さんは、明日もし月に帰らなければならないとしたら、どうする?
長友 すっごく大好きな人、家族や、お世話になってる方、クライアントなどに「私はとても幸せな人生でした。ありがとうございました」っていうのを伝えに行きたいですね。
あと、愛してる人といちゃいちゃしたい(笑)。
── あははははははは(笑)。いいわね、それ、いい。
長友 ただの煩悩ですよね。いちゃいちゃしたいって(笑)。
── いいじゃない。いろいろあったみたいだけれど、すてきな人生を送っているみたいね。
長友 そうですね。毎年、「去年よりもいい一年だったなぁ」と思って過ごしていますね。1年後こうなってたらいいなぁ、という希望をいい意味で裏切っているというか。これからも、1年後どこで何をしているかわからない人生を楽しみながら、ずっと続けていければいいなと思っていますね。
── 楽しい時間を過ごせたわ。輝く笑顔、素敵な人生。乗り越えることって、たくさんあるわよね。また遊びにきなさい。宮崎県のお酒を用意して、待ってるわ。
— 立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花 —
(トップ画像提供:サンワード・ラボ株式会社)
お話を伺った人
長友 まさ美(ながとも まさみ)
サンワード・ラボ株式会社 代表取締役。「経営者もスタッフも幸せにはたらく会社づくり」をテーマに、企業研修、チームビルディング、エグゼクティブコーチングを行う。組織開発や対話の手法を地域づくりにも活かし、キーパーソン育成、地域資源を活かした商品開発など、その活躍は宮崎県にとどまらず、全国各地に広がっている。ローカルメディア「宮崎てげてげ通信」の会長兼美人広報部長。